風に揺らされる銀の前髪の間から、抜けるような青空を見ていた。
規則正しい羽ばたきの音が眠気を誘う。
「……次郎、あれ!」
すぐ隣に座っていた九十朗が、次郎五郎の身体に手をかけた。
横たえていた身体を起こす。眼下に一つの島が浮いていた。その一角が、一面淡い桃色の雲で覆われている。
「あれがジパングだよ」
兄弟を背に乗せてここまで運んできた巨大なペリカンが、そう告げた。
「ふわぁ……」
九十朗は目を大きくして周囲を眺めていた。
上空から見て、彼らが雲だと思っていたのは満開の桜の花だった。視界のどこにでも入り込んでくるほどに数が多い。
次郎五郎といえば、それには無関心に立看板を見ていた。どうやら周辺の地図が貼られているらしい。
やがて上半身だけ振り返ると、弟を呼ぶ。
小走りに近寄ってきた九十朗に、地図を指し示した。
「どうも、ここは大した街じゃないらしい。島の奥の方に市街地らしい場所があるから
そっちを当たってみよう」
頷きながら地図を見ていた九十朗があることに気づく。
「次郎、ここ。神社だってよ」
ああ、と小さく呟く。
「縁起担ぎに寄ってみるか」
桜の樹が視界を埋める中、参道を進む。
それに沿って並ぶ露店は、他の町のものとはちょっと趣が違って、珍しそうに九十朗は視線を向けていた。
石段を少し登った先に、拝殿があった。
賽銭箱に心ばかりを投げ入れ、二拝二拍手一拝。ふぅ、と息をついて肩の力を抜いた。
「で、次郎。奥の街ってどう行くんだ?」
「ああ、石段の下の道をもう少し進んだ先らしいんだが」
「……お若いのに、随分しっかりとした作法で参拝していただけるんですね」
小さく声をかけられて、少年たちは揃って視線を向けた。
そこにいたのは、一人の少女だった。長い艶やかな黒髪が、透けるような白い肌を縁どっている。こちらを見つめる大きな瞳は、幼さではなく落ち着きを感じさせた。純白の千早と鮮やかな緋袴のコントラストが目に眩しい。
「育ての親が、信心深い質でね。……この神社の人?」
次郎五郎の返事に、少女は頷く。
「巫女を務めております、木野子のこと申します。……あの、ショーワ町へ向かわれるのですか?」
頷く二人に、やや急いた様子で彼女は言葉を続けた。
「ご迷惑でなければ、護衛をお願いできないでしょうか?」
神社の裏手、人の滅多に来ない場所へ移動して、のこは口を開いた。
「ショーワ町について、どれほどご存知ですか?」
「俺たちは今日この土地に来たばかりなんだ。全然知らないと言っていいと思う」
そうですか、と呟いて、彼女は視線をさまよわせた。
「ショーワ町は、人々の住む街です。子供がいて、その親がいて、商売をする人がいる。だけど、その街を支配しているのは、司法ではなく悪党なのです」
苦しげに、のこは顔を伏せた。
「……この神社は、恥ずかしながら近年困窮しておりまして……。ショーワ町の、火狸金融に相談して何とか融通したのですが、その、支払いが滞っていて」
「なるほど」
短く、相槌を打つ。くどくどと問いただすことではない。
「火狸金融の担当者と話し合うためにショーワ町まで行かなくてはならないのですが、道中にはモンスターが出没します。それでなくても、ショーワ町には札付きの人間が幅を利かせています。できる限りのお礼は致します。どうか、往復する間の護衛を頼めないでしょうか」
のこの澄んだ瞳が、まっすぐに二人を見詰める。
兄弟は顔を見合わせて意思を確認すると、少女に向き直った。
「俺たちも向こうの街で用事がある。それは貴方の用事の後でも構わないが、ひょっとしたら数日かかるかもしれない。その間こちらへ戻るのを待って頂けるのなら、護衛は引き受けられるが」
顔を輝かせ、少女は深く頭を下げた。
神社とショーワ町の間を繋ぐ街道は、森の中を通っていた。
といっても、エリニアのように鬱蒼と茂ったものではなく、陽の光もよく差しこむ明るい森である。
出没するモンスターも獣型のものが多い。
時折行く手を阻むそれらを、次郎五郎と九十朗はさほどの労力もなく薙ぎ倒していった。
「お二人ともお強いのですねぇ」
両手を胸の前で組んで、感心したようにのこが言う。
「そうでもないさ。まだまだだ」
謙遜でもなんでもなくそう返す。実際、冒険者としてはまだ駆け出しだ。だが、戦闘経験などない巫女からは、そうも見えないのだろう。
しかし実際、次郎五郎の腕は上がっている。九十朗はそう考えた。
二人はジパングへ渡る前に、ペリオンへ寄っている。そこで、第二次転職を受けてきたのだ。
その時次郎五郎は、いやに長い時間[コブシを開いて立て]と話しこんでいた。暗い聖殿から出てきた兄が、どこか吹っ切れたような表情をしていたのが印象に残っている。
「あ、見えましたよ」
小高い丘の上に立った時に、のこが告げた。木々を透かして、麓に広がる街が見える。
あれが、ショーワ町。
夕暮れの光に染まる町は、なるほど柄が悪く見えた。
街道から門へ足を踏み入れる前から、彼ら三人はあからさまにじろじろと視線を向けられていた。
「今日は宿を取って休むか?」
半日ほどかけて街道を通って来たばかりだ。冒険者でもないのこは疲れが酷いだろう。そう思い、次郎五郎は提案したのだが、のこは静かに首を振った。
「明日まで時間を置けば、私が来たことに対する策を練られてしまいます。ここは時間を置かずに強襲しましょう」
「……強襲?」
何だか穏やかでない単語を聞いた気がして、呟く。
が、それにのこが言葉を返す前に、彼らの行く手を数人の男が塞いだ。
「お前ら、どこに向かってんのか判ってんのか、あぁ?」
「お子様たちがうろうろしていい場所じゃねぇんだよ。とっととうちに帰っておっかさんの乳でも吸ってんだな」
どっと野卑な笑いが巻き起こる。
小さく溜息をついて、次郎五郎は静かに口を開いた。
「いけ、九十朗」
「俺かよ」
小声で返しながら、一歩前に出た。男たちは半眼で睨め上げる少年に、にやにや笑いを深めている。
「あ? おうちの場所が判らなくなったのか、ぼーず?」
「うッさいわボケぇ。余所モン相手にぐだぐだ言うしか使い道ないんやったらその口縫いつけとけやカスが」
九十朗の口から、その姿からは想像できないような言葉が放たれる。男たちは、一瞬虚を衝かれて怯んだ。
「こっちは火狸金融に仕事の話があって足運んどるんじゃ。ようこそいらっしゃいました言うて案内するんが筋っちゅうもんやろうが。下っ端ゆうだけでも邪魔やのに、使えへん下っ端やったら居るだけ無駄やろうが、あ?」
「っ、べらべらと……!」
頭に血が昇った男の一人が、手にしていた木刀を振り上げた。
九十朗が冷静に剣を鞘から抜こうとした瞬間。
「よせ」
男の背後から、その腕を押さえる人間がいた。
「コ、コンペイさん……」
男たちの態度が、急におどおどしたものになる。
「……神社からいらした方ですね?」
歳は五十ばかりだろうか、白くなった頭髪に皺の多い顔。白いスーツの下には深紅の開襟シャツを着て、大きく開けた襟元から金のチェーンネックレスが覗いている。その眼光は、この場の誰よりも鋭かった。
無言で、のこが頷いた。
「うちの者が失礼をしました。ご案内します。どうぞ」
渋々と、チンピラ共が道を空けた。
コンペイが白いスーツの裾を翻しながら踵を返す。その後について歩きだしながら、のこが声を潜めて問いかけた。
「あの、先ほどの九十朗さんは一体……」
「ああ、あれ? 俺たちを育ててくれた人がああいう喋り方してたんだよ」
あっけらかんと答える少年からは、先ほどまでの凄みは感じられない。
「俺よりも弟の方が上手く喋れるからな」
さらりと補足した次郎五郎の言葉に、のこは二の句が告げなかった。
火狸金融の応接間に通された三人は、しばらくそこで待たされた。
やがて扉が開き、初老の男が姿を見せた。
白髪はまるで相手を威嚇するようにセットされている。黒の紋付に黄色い袴が派手な印象を与えた。
のこが小さく息を吸いこむ。
「……社長自らがお会いしてくださるとは思いませんでした」
「部下が手を焼いているほど頑固だからな、お前さんのところは」
低い声でそう告げると、社長は品定めするようにのこの両脇に座る少年たちを眺めた。
「それでは、お話に入りましょうか。お約束のお金ですが、月に十万メル、これがもう半年も滞納されています。再三の催促にも一向にお支払い頂ける素振りもない。一体どういう予定でいらっしゃるのかをお伺いしたいのですが」
きびきびとそう問い詰めたのは……、のこだった。
唖然として、次郎五郎と九十朗が清楚な巫女を見つめる。
額に薄く汗を滲ませて、社長が口を開いた。
「こちらにも色々と事情があるのだよ。どうも、警察が税務署と組んで我が社へ監査にやってきそうなのだ。妙な金の流れを残しておくわけにはいかない」
「それはそちらの都合でしょう。プロなのですから、その辺りの処理はそちらがきちんとするべきであって、賃貸料金の支払いを滞らせる理由にはなりません。火狸さんがそのおつもりなら、今後こちらからの提供はお断りすることになりますが」
「いや、それは困る! 神社での収入は我が社にとってかなりの財源だ、それを絶たれては返済どころではなくなってしまう」
「ですから」
「……あの……」
おずおずと、次郎五郎が声を上げた。
丁々発止とやりあっていた二人が、揃ってこちらを向くのに、銀髪の少年は内心びくついた。
「話が読めないんだが……。滞納、って、借金の話じゃないのか?」
「ええ、ある意味借金ですわ。うちの神社は、火狸金融さんに本殿を週に一度お貸ししていて、その賃貸料を取り立てに来たんです」
「金融会社が借金してるのかよ……」
呆れたように九十朗が呟いた。
酷く疲労を感じながら、更に次郎五郎が尋ねる。
「だけど何だって、わざわざこの町から遠く離れた神社なんかを借りるんだ? しかも週に一回なんて中途半端な」
「離れているから、いいんですよ。神社まではこの町の警察の目も届きません。それでもあまり頻繁に開いたら危険が増しますしね」
「……危険?」
何だかあまりツッこんで聞かない方がいい予感がしていたが、話が読めないのは気持ちが悪い。
「ですから」
のこは純真な瞳のままで告げた。
「賭場ですわ」
「…………神社の本殿で賭場開いてんのか、あんたら!!」
いきなり怒声を上げた次郎五郎に、のこはやや身を引いた。
「え、ええ……。何をそう怒っていらっしゃるんですか?」
「いやほら次郎は結構信心深い方だから」
隣から九十朗が説明する。
「でも、何とかして収入を上げないと、神社の維持費だけでもかなりかかりますし……。あ、それにほら、信仰と賭博って結構密接な関係にあったりするんですよ。お釈迦様も説教の合間に賭けごとをされていたそうですし」
「いやそれ仏教」
更に冷静に九十朗は指摘した。
そんな三人の様子を、社長は狡猾そうに見ていた。
「……そろそろいいかね?」
そう尋ねられた言葉に、次郎五郎も冷静さを少しは取り戻したようだ。
「実際問題、今即金で賃料をお支払いするのは難しい。そこでひとつ、賭けをしようじゃないか。そちらが賭けに勝ったなら、金を掻き集めてでもお支払いする。だが、もしも負けてしまったなら、こちらの事情がひと段落するまで、支払いは待っていただきたい」
「そうやってずるずると払わないでいるつもりではないのですか?」
猜疑に満ちたのこの言葉を、社長はきっぱりと否定した。
「それはない。何なら、改めて誓約書を書いてもいいだろう。ここだけの話だが、今、警察の上部に働きかけて強制捜査を回避させようとしているところだ。それが成功するかどうかのところにきている。そう長くはかからない筈だ」
さほど悪い申し出ではない。実際、今回も踏み倒される可能性が高かったことを考えれば、破格の申し出と言えるだろう。しかし。
「でも、私は賭けなどやったことありませんし……」
縋るような視線を、隣に向ける。
「ごめん。俺、賭け事は弱いんだ。今まで次郎に勝ったことがない」
九十朗からそう言われ、のこはおずおずと銀髪の少年を見つめた。
次郎五郎が、長々と溜息をつく。
「……確かにあんたは止めなかったが、実際に賭場を開いたのはこの会社なんだし、そもそも払えない訳でもないのに支払いをしない方に非があるんだしな……」
「助けてくれるんですか?」
ぱっ、と少女の顔が明るくなる。
「仕方がないだろう。任せろ」
広々とした和室に、三人は通された。
しんとした空気に、時折鹿威しが響く。
上座に座った社長がおもむろに口を開いた。
「賭けは丁半だ。参加するのは壺振りとそちらの一人だけで、単純に丁か半かで判断する。十回勝負で、五回先に勝った方が勝ちだ。それでいいかな?」
少女は小さく頷いた。
壺振りは既に席についている。その正面に座って、次郎五郎は小さく目礼した。少し離れて、九十朗とのこが腰を下ろす。
「やってくれ」
社長のことばに頷いて、壺振りは鋭く次郎五郎を見据えた。
片手に壺、片手に二つの賽を持ち、それを相手に向ける。
張り詰めた空気に、思わずのこは息を呑んだ。
「入ります!」
賽が壺に投げ入れられる鋭い音、壺が畳に押しつけられる鈍い響き、そして微かに聞こえる賽の回転音……。
「半か丁か!」
びん、と空気を震わせる声に気圧されることなく、次郎五郎は冷静に口を開いた。
「ニロクの丁」
ぴくり、と壺振りの肩が震える。
「……半か丁か、だけでよかったんじゃねぇですか?」
「それじゃつまんねぇだろ?」
「ニロク以外の丁でも、あんたの負けになりやすぜ?」
「いいから開けてみな」
飄々と次郎五郎が促す。
ふっ、と壺を上げたそこには。
二と六の、丁。
ふぅっ、と空気が緩む。
のこが詰めていた息を吐いた。
「もう……! ひやひやさせないでください」
やや血を引かせて、そう抗議する。
「俺に任せたんだから好きにさせろよ。負けやしないから」
素っ気なく答える少年を、敵意も露に壺振りが睨みつけた。
二戦目。シサンの半。
三戦目。グニの半。
四戦目。シゾロの丁。
全て、次郎五郎は言い当てた。
「凄い……。どうして、こんな……」
のこが、呆然として呟く。
「次郎は小さい頃からあの人に鍛えられてたからなぁ」
のんびりと、九十朗が答える。
「あの、貴方がたを育てた方って一体……」
恐る恐る尋ねてみるが、それについて少年は苦笑しただけだった。
一方、次郎五郎は恐ろしいほどの集中力で壺振りと睨みあっている。
五戦目。これを当てれば、のこ側の勝ちが決まる。
「……入ります」
そして、次郎五郎が、それを口にした。
「ピンゾロの丁」
静かに上げられた壺から現れたのは、鮮やかに赤い二つの円。
「勝った……!」
のこが声を上げるのと、社長が大きく手を打ち鳴らすのとは同時だった。
鋭い音を立てて、四方の襖が開いていく。
その向こう側には、ずらりと武器を持った男たちが並んでいた。
「何のつもりです?」
のこが高い声で問い詰める。九十朗と次郎五郎が、彼女を庇う形でゆっくりと立ち上がった。
「何、お支払いする金を掻き集める間、待っていてもらわなくてはならないだけだ。おとなしくしていてくれれば、こちらも手荒な真似はしないさ」
「……まあ、あっさりと金を渡してもらえるとは思ってなかったけどなぁ」
すらり、と剣を抜きながら九十朗が呟く。
「じゃあ、とりあえず社長の身柄を確保して金庫から現金を出させて帰るか」
僅かに腰を落とし、すぐに長剣を放つことができるような体勢で次郎五郎が提案した。
その二人を宥めるように、のこが口を開く。
「あの……、それって犯罪なんじゃないですか?」
「あんたが言うな。」
その意見は、兄弟揃って却下を食らったのだが。
じり、と包囲する集団が距離を詰めてくる。
一触即発の空気が漲る中。
緊張を破った銃声は、意外にも部屋の外からだった。
虚を衝かれて、全員が一瞬視線を流す。
「……警察だ! 賭博法違反の容疑で全員逮捕する! 武器を捨てろ!」
その声が響いて、現場は大混乱に陥った。
次郎五郎、九十朗、のこの三人は、陽もすっかり暮れた頃に警察署の取調べ室に座っていた。
火狸金融に乗りこんできた警察に捕まり、無愛想にここに押しこめられたきり、放っておかれているのだ。
疲れと空腹が耐え難いほどになってきたときに。
簡素なアルミの扉が開き、一人の男が入ってきた。
「……あ!」
三人が、驚きの声を上げる。
そこにいたのは、白いスーツに赤い開襟シャツを着た男。ヤクザたちからコンペイと呼ばれていた相手だった。
「あんた、何で……」
「すまねぇな。何せ大量検挙だったもんだから、こっちも手が足りなくてよ。もうじき夕飯がくるから、それまでちょっと話を聞かせてもらえるか?」
にやりと笑みを見せて、三人の前のアルミ椅子に座る。
「……警察の人だったんですか……」
警察のあのタイミングと手際のよさ。内部に手引きをする者がいたとするなら、それも不思議ではない。
「そうは見えねぇだろ?」
揶揄するように言って、向き直る。こちらを見透かすような視線は、彼が刑事だったせいか。
「話と言っても、俺と弟は今日ここに来たばかりなんです。お話するようなことはありません」
「ああ、午前中のカニングからの便で来たんだってな。だったらまあ巻きこまれただけなんだろう、なぁ?」
何かを含むような声で、そう同意を求めてくる。
無言で兄弟が頷くのを確認して、コンペイはのこへ矛先を向けた。
「さて、由緒ある神社の巫女さんが何であんなところに?」
「私……は」
掠れた声で、それだけを答える。その後の沈黙が、酷く痛い。
がさ、とコンペイが手元の書類を捲った。
「……調べによると、神社の方は火狸金融に本殿を貸しておられたようですね。その賃料が、この半年ほど支払われてなかったようですが、その件ですか?」
のこは、何も話さない。
「火狸金融が、わざわざそちらの本殿を借りてまで何をしていたのか、ご存知ですか? いや知らないでしょうなぁ。巫女さん、しかもまだお若い女性があんな強面の男たちに近寄るのは恐ろしいでしょうし」
わざとらしくそう続けるコンペイに、のこはぽかんとした表情を向けた。
充分強面の男は、にやり、とそれに笑んでみせた。
「あなたは、正当な貸借関係についてお話に来たのでしょう?」
「……は……い」
「いやいや、あのような騒ぎに巻きこまれて大変でしたな。お察しします。今後、また何かお聞きすることがあるかもしれませんが、どうぞご協力をお願いします」
つまり、この男は神社での賭博行為に目を瞑ろうとしているのだ。
「それで、いいんですか?」
小さく尋ねた声に、コンペイは素知らぬ風に片方の眉を上げて見せた。
「……まあ、あれだ。おまえさんが三下に切った啖呵が気に入った、てのもあるんだがな」
九十朗に目をやって、コンペイが苦笑する。
「あれが?」
「ああ。昔会った奴が、あんな風に話す奴だっ……」
がたん、と音を立てて、勢いよく立ち上がった兄弟に、一瞬コンペイが身を引いた。
「な、何だ?」
怖いほど真剣な瞳で、少年たちは叫んだ。
「その……、その人のことを、教えてください!」